新日本世情



この教科書の趣旨
 このテキストの趣旨は、日本語を学ぶ学生たちが、単に日本語能力を習得するだけでなく日本の社会、文化や歴史などの「日本事情」について学ぶことで、従来の日本語教科書には出てこない多様な語彙力を獲得し、自国の文化と比較する思考力を養成し、様々な分野のコミュニケーション能力をあげることです。
このテキストは世界の日本語学習者と共有しようという趣旨から企画されました。今度はコア版として中国で出版されますが、さらに中国の事情との比較コラムを入れた中国版も企画中です。また、アメリカ、ヨーロッパ、韓国など世界各地での出版をめざしています。その際は、アメリカ、ヨーロッパ、韓国などの日本文化に精通された先生方からの各国の事情との比較のコメントを加えて、出版が予定されています。
グローバルに広がる世界にも、個々の文化が存在し、日本と比較することで、自国に適した「日本事情」を学ぶことができます。
教科書に書かれた情報を正しく受信し、自分の考えを正しく発信するためには、教科書の読解能力だけではなく、文章や段落の中での社会的・文化的背景などの言語外的な要素を理解する能力、つまり社会言語学的な能力や社会文化的な能力も必要です。
このテキストでは、日本に関する事柄を様々な角度からとらえ、自国との比較において疑似体験できるように作成しました。多様な文化の存在を比較する異文化学習にもつなげることができます。
「日本事情」を最も効果的に学べるのは、「日本事情」の教科書の内容を読み取る「受信型」の理解にとどまらず、各課に付されたタスクを行う中で、読み取った内容を主体的に理解し、自らの意見や見解を「発信」するときです。
タスクにある他の学生との交流や意見交換、授業における調査・研究、発表やディスカッションなどを通して、自らもコミュニケーションに積極的に参加していく「発信型」のスキルも身につけるようにしましょう。
この教科書では、このような目的を考慮して課ごとに具体的な場面を設定し、導入会話にはじまり、情報を理解するための読解文をおき、最後にさまざまなタスクを設定しました。
可能な限り、写真やグラフなどを使用し、また学習者がさらに自分で調べるために、テキストで扱った資料はその出典(ウェブ資料の場合は、そのURL)を明らかにしています。
この教科書を使って、日本の社会や文化について学び、さらにタスクで実際に調べたり討論したりする活動にまで発展させること、その過程で日本社会を学ぶと同時に総合的な日本語能力を育成していくことがこのテキストの最終的な目的です。
テキストの構成
この教科書は、日本の社会をさまざまな角度から理解することを目指しています。
全体は10のユニット(構成単位)から成り、それぞれのユニットは3課で構成されています。大学2年生の1年間で学ぶことを想定しており、1学期にユニット1からユニット5まで、2学期にユニット6からユニット10までを学びます。
日本語の書き言葉には文末を「~である」で終える場合と「です・ます体」で終える場合があります。話し言葉になると、更に文末に「だよ」「ですね」などのように「~よ」や「~ね」を加えることで、自分の意見を主張したり、相手の意見に同意することを表す「終助詞」を伴います。
この教科書では、導入会話で「話し言葉」を学びます。また教科書の文体は「~である」体と「~です・ます」体を、内容に合わせて書き分けています。内容だけでなく、文体にも注意しながら、読み進めてください。
双眼鏡の視点から徐々に虫眼鏡の視点まで多面自勺に日本の社会について学び、クラスで活発なディスカッションをすることで、受信型から発信型ヘスキルを高めましょう。
2014年10月       
佐々木瑞枝        


目次


第1課
位置と国土

(三陸復興国立公園 大須賀海岸 青森県八戸)
この課の目的
  世界の中の日本について、地理的状況を理解し、狭い国土の中に「火山帯」が走る地震列島であること、災害に対する備え、世界の大都市との比較を行う。
導入会話
  スージー: 日本にはたくさんの温泉があるそうですね。どうしてそんなに温泉があるのですか。
  木村: それは日本には火山がたくさんあり、その周りで温泉ができるのですよ。


第4課
原始時代と古代

(奈良県明日香村にある古墳時代後期7Cの古墳)
この課の目的
  日本の古代である縄文時代、弥生時代の特徴を字ぶこと。その後、日木が国家として形を垂えていく奈良時代、平安時代について学び、300年以上続く貴族の政治がなぜ崩壊Lていくのかを考える。
導入会話
  留学生: 平安時代って、どんな時代ですか?
  先 生: 支配楷級である貴族階級が政治よりも文化に興味を持った時代、たくさんの文学作品が牛まれた時代ですよ。


第6課
近現代

(旧弘前市立図書館木造洋館3階建て、明治34年に建てられた)
この課の目的
  近現代の日本社会の変化を理解する。明治維新で若者の指導者たちが成し遂げた近代化について考え、その後の日本がなぜ牡界の大戦に参戦したのかを考える
導入会話
  夫: 来年の4月から僕も正規社員になれそうなんだ。
  妻: 本当、よかった!これで安心して子供が生める。
  夫: 非正規雇用だといつやめさせられるかわからないしね。
  妻: 正規社員なら、家を買うローンも借りられるしね。


第9課
現代文化

(世界遺産 古都奈良の平城京跡のライトアップ)
この課の目的
  に本のアニメは今、世界のアニメになりつつある。この課では「一休さん」と「ドラえもん」を取り上げ、自国でもそれらが放映されている場合、人気の秘密を考えてみよう。映画では数人の監督の作品について学ぶ。
導入会話
  息子: ああ、僕にもドラえもんがいたらいいのにな。
  母親: 何でもドラえもんがしてくれたら、あなたのすること、なくなるでしょう。


第10課
ライフスタイル

(森林の多い長野県の別荘)
この課の目的
  日本人のライフスタイルの基本である「衣食住」について押解を深め、自国のライフスタイルと比較し、クラスで発表・ディスカッションする。
導入会話
  トム: 日本の電車って、時間通りに動くのですね。
  リサ: ええ、5分遅れてもお詫びの車内放送がありますよ。


第13課
中国文明の伝来

(古都奈良の東大寺)
この課の目的
  古代日本が中国から何を学び国を作っていったのかを学ぶ。
導入会話
  木付: 遣隋使や遣唐使は、よく、こんな小さな船で中国までいきましたよね。
  加藤: それだけ、中国の進んだ文化を取り入れたいという思いが強かったのでしょうね。


第27課
流行・文化

(日本のアニメファッションは世界に広がる。ハンガリーの女性たち)
この課の目的
  日本人の生き方や価値観に着目して自国の文化や風潮と比較しながら「お財布携帯」「ブログ」「ネットカフェ」「健康志向」「ダイエットブーム」などについて知識や考えを深める。
導入会話
  おばあさん: 今日も二人で、散歩しましょう。
  おじいさん: そうだね、長生きするためには丈夫で元気が一番だからね。


第30課
多文化共生社会

この課の目的
  今後「多文化共生社会」を目指していくには、どのような視点が必要だろうか。多文化共生の先進国であるオーストラリアの例から学ぶ.日本では現在、多文化共生施策は、国レベルではなく、地方レベルで行なわれている。地域では、どのような活動が繰り広げられているのかを理解し、今後のあり方を考える。
導入会話
  息子: ねえ、隣に引っ越Lてきた人外同人だよね どこの国の人かなー。
  父親: ブラジルだそうだよ。子供もいるみたいだから友だちになれるね。



 この本は2006年、高等教育出版社の祝大鳴氏から企画をいただいたものです。中国で毎年増刷出版されている拙著『日本世情』(外語教学与研究出版社:1995年)、『日本事情』(アルク出版)から20年以上が経過し、日本の社会や文化のあり方が大きく変化していることから、この本を新たに執筆することにしました。執筆にあたっては、北京外国語大学教授の曹大峰氏から目次楕成や執筆スタイルなどに関する様々なアドバイスをいただきました。中国と日本の双方に通じた曹大峰先生からのご指摘は大変有り難く、心より御礼申し上げます。
 また、世界の日本語学習者と共有しようという趣旨から、2014年、30課を書き終えた段階で、下記のように世界の日本語教育界をリードする5人の先生方からコメントをいただきました。先生方のコメントを参考にして加筆修正し、この本が世に出ることになりました。

牧野成一先生(米国 プリンストン大学名誉教授)
ユデイツト ヒダシ先生(ハンガリー ブタペスト商科大学教授)
門倉正美先生(日本 横浜国立大学名誉教授)
朴正一先生(韓国 釜山外国語大学教授)
先生(中国 中国人民大学教師)

 本書の執筆にあたって、多くのアドバイスや激励、コメントをくださった多くの先生方のお力がなければ、とても本書は完成しなかったと思います。

 心より御礼申し上げます。
 皆様、ありがとうございました。

2014年10月       
佐々木瑞枝        



佐々木瑞枝
Mizue Sasaki Phd

武蔵野大学名誉教授
金沢工業大学客員教授
山口大学教授1988年4月~1993年9月
横浜国立大学教授1993年10月~2003年3月
武蔵野大学大学院教授 2003年4月~2013年3月

第55回 産経児童出版文化賞受賞

主な著書
日本事情、北星堂、1987年
日本世情、外語教学与研究出版社、1995年

公式ホームページ
http://www.nihongonosekai.co.jp



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